当院では、インスリン治療やインクレチン製剤の新規導入、治療法の変更を一人一人の病状や社会背景を見極めつつ行っています。
※最新の治療、診断機器の一つ「インスリンポンプ療法(CSII)」や「持続血糖モニタリング(CGM)」などは、当院では緊急時の対応や施設要件などの点で実施できないため、基幹病院(岐阜県立多治見病院、多治見市民病院など)と連携して実施しております。
健康な人と変わらない、すこやかな人生を
人間が生きていくためには、食べた物の栄養を毎回きちんと体に身につけていく必要があります。食事で摂った栄養は腸で吸収され、血液中に取り込まれます。その際「ブドウ糖」として体中を巡回しますが、これだけではまだ役に立たず、膵臓のβ細胞から分泌される「インスリン」というホルモンが働くことで、ようやく栄養分が身につくようになります。
糖尿病とは、この血液中の糖分の濃さである『血糖値』が高くなる病気です。多くはインスリンの効きが悪くなったり、体に不足ししたりすることが原因ですが、理由は様々です。
60歳を過ぎると3人に1人は糖尿病と言われますが、時に生まれたての赤ちゃんが患ったり、妊娠時やがんを患った際、高齢になって発症したりすることもあります。どんな段階で発症しても、その状態を長く放置しておくと、様々な病気『合併症』が発生してしまいます。この合併症が起こらないようにするために、糖尿病の治療が必要なのです。
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合併症は多岐にわたります。糖尿病の患者さんに特徴的な『3大合併症』(神経障害・網膜症・腎症)のほか、比較的大きな血管の病気である『脳梗塞・心筋梗塞・下肢閉塞性動脈硬化症』なども起こります。
また、統計的に、癌になる確率が高まり、認知症、骨折、うつ病なども糖尿病の患者さんに多いことが知られています。原因のはっきりしない神経痛なども、糖尿病が原因のことがあります。概して、普通の人より「老化が早まってしまう」と言っても差支えがないかもしれません。
だからこそ治療の目標は、「自分自身を管理でき、糖尿病の合併症を起こさせず、また、起きてしまった合併症を進めさせないこと」です。そのために私は「患者さんご自身に療養意識を持ってもらえるように指導すること」が大切と考えています。
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欧米人には非常に体格の良い(太った)方が少なくありません。彼らは日本人に比べ、インスリン分泌の余力が違うため、「食べた分だけ際限なく太る」ことができてしまいます。一方、日本人は、そこまで太る前に、インスリン工場である膵臓のβ細胞が破綻をきたし、インスリンが必要量に対して十分に分泌できず、糖尿病を発症し急激に痩せていくことが多いと言われます。
糖尿病に対する最も根本的な治療は、この「足りないインスリンを補充する」ことになりますが、単にインスリンを補充するだけでは、体格の良い欧米人のごとく、そのまま糖尿病発症前のように一方的に太るばかりとなり、どこかでまた破綻をきたしてしまいます。
ですから、たとえば食べ方の問題、運動量の問題、他の病気の問題などがある方は、まず根本的な問題を片付けることで、インスリンを補充するまでもなく、血糖値を上手にコントロールできるケースがあります。
多くの人にとって、インスリンを体に補充する(注射する)のは、心理的にハードルの高い治療となります。そのため治療で大切なことは、まずはできること、必要なことから、きちんと行うことです。
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初診時または必要時に、糖尿病の病気のメカニズム、現時点での体の状態、治療目標やその治療で期待できる効果、その他の治療選択肢などを、具体的にお示しいたします。
※今後は定期的な「糖尿病教室」を開き、『患者さんに役立つお話』を提供していく予定です。
患者さんの生活背景から、摂取すべき食事の大まかな栄養配分を導き出し、指導します。食事習慣が糖尿病に与える影響は大きく、外来指導において力を入れている領域です。患者さんにとって毎日関わっていく問題ですから、なんでも気軽に相談していただけるよう心がけています。
※糖尿病治療中の方は「糖尿病にいい食事」「摂った方がいい食品」に目が向きがちですが、「良いと思っている食事法」 が、結果的に糖尿病に悪影響を及ぼしていることも少なからずあります。患者さんの生活背景から、摂取すべき食事の大まかな栄養配分を導き出し、個別に指導いたします。食事習慣が糖尿病に与える影響は大きく、どんなにいい薬や注射剤を使っても、ここが間違っているとなかなか血糖値は改善してきません。患者さんにとって毎日関わっていく問題ですから、何でも気軽に相談していただけるよう心がけています。
社会の高齢化が進む昨今、運動器(足腰)の脆弱性が問題となっていますが、上で述べたように糖尿病とも強い関連性があります。血糖値改善のため、10年20年先の健康を目指した、『可能で続けられる運動療法』のために、患者さんと 一緒に生活スタイルを組み上げていきます。
それでも改善しないときは…
多くの医療分野の中でもとりわけ進歩の目覚ましい「糖尿病薬」について、きちんと最新の治療法を踏まえながら、一人一人の病状や生活に合わせた治療法を選択します。糖尿病の薬剤はこの数年で飛躍的に選択の幅が広がりました。薬を使用することに対して抵抗感のある方も多いと思われますが、必要な時、必要な治療法を選択することが、長い人生を上手に乗り切る強い味方になってくれます。逆に、薬に頼り切って、食事や運動がおろそかにしては、それを帳消しにできるほど現在の医学は進歩していませんので、バランスを上手に取っていくことも必要です。
当院では、インスリン治療やインクレチン製剤の新規導入、治療法の変更を一人一人の病状や社会背景を見極めつつ行っています。
※最新の治療、診断機器の一つ「インスリンポンプ療法(CSII)」や「持続血糖モニタリング(CGM)」などは、当院では緊急時の対応や施設要件などの点で実施できないため、基幹病院(岐阜県立多治見病院、多治見市民病院など)と連携して実施しております。
基本的には1か月に1回〜2回(治療開始初期や治療変更時)の通院が一番望ましいと考えています。
大病院では長期処方により数か月毎の受診となるケースが多くなっていますが、季節や体調、ライフイベントによって、療養環境は日々変わっていきます。「自覚症状のあまりない」病気だからこそ、通院して現状を「確かめ」「意識する」ことが大切です。
日本の国民皆保険制度は、諸外国に比べ、少ない負担できちんとした治療を受けられる素晴らしい制度です。より健やかな人生のために、その恩恵を十分に活用し、ご自身の健康を守っていただきたいと考えています。
大学を卒業後、様々な専門領域の魅力にふれましたが、とりわけ糖尿病という疾患の、学問として幅広さと、人間学としての奥深さに魅了され、自身の専門とすることに決めました。
「糖尿病」は疾患群の一つに過ぎません。しかしながら、循環器内科、消化器内科といった臓器別の内科と同列の、一つの専門医資格として存在するには理由があります。それは、それだけ患者数が多く、また全身への影響力も大きく、結果的にその人の人生さえも大きく左右してしまう疾患であるからです。
私は糖尿病に対して、ただ薬を投与し、生活を制限するだけで済む疾患ではないと考えています。
その方がどういう人生を送りたいのか、どう暮らしたいのか。
そのために医者は、どう力になれるのか。
かかりつけ医として患者さんに寄り添うこと、糖尿病を治療すること。二つは相似形だと思います。
患者さんのより良い人生のために、何か少しでもお力になれればと考えています。
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医師 池庭 誠